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岸田内閣総理大臣

150日間の会期も、残すところ、2日となりました。この通常国会を振り返るとともに、今後の政権運営についてお話をさせていただきます。

国会では、我が党の政治資金をめぐる問題に端を発し、政治への信頼回復が最大の論点となりました。
私は、1993年に初当選をいたしました。私の政治家としての最初の課題は、「平成の政治改革」論議への参加でありました。従来、政治改革には、常に思いを持って取り組んでまいりました。その自分が自民党総裁となって直面した今回の問題。私自身、覚悟を持って、年明けに政治刷新本部を立ち上げ、約半年の間、累次にわたって必要な対策を示し、必要な行動を促してきました。ときに、壁にぶつかることもありましたが、その際には、私自身が一歩前に出るとの思いで、いわゆる派閥解消や政倫審(政治倫理審査会)への出席などを決断してまいりました。
その上で、大きな課題としての政治資金制度への信頼を高め、民主主義の基盤をより強固なものにするべく、政治家の責任強化は当然のこと、政治資金パーティー券の購入者の公開基準の引下げや、政策活動費改革を含む、政治資金規正法改正を実現することができました。

一方において、再発防止の徹底と政治資金の透明性拡大、他方で、民主主義のインフラである政治資金の適切な確保という二つのバランスを取る、難しい作業でありましたが、各党、各会派の真摯な議論に心から感謝を申し上げます。
附則において検討課題とした政策活動費の透明性の強化や、監査のための第三者機関の設立などについては、今後、早急に内容具体化の協議を進めてまいります。
政治改革に終わりはありません。選挙制度や国会での議論の在り方などを含め、課題は山積しています。党内での活発な議論や、各党、各会派との真摯な議論を続け、国民のため、民主主義を守るための不断の改革に取り組んでまいります。

政治改革に報道の注目が集まりましたが、この国会においては、こども・子育て支援の抜本的強化のための法案、農業の憲法である食料・農業・農村基本法の改正を始め、政府が提出した62本の法案中、一つを除き、全てが成立し、重要な政策が大きく進みました。関係者の皆様に心から感謝を申し上げます。

令和6年能登半島地震の復旧・復興、政府として全力を挙げて取り組んでおります。国会でも活発な審議が行われました。
現場では、家屋解体、水道の復旧を始め、様々な難問が立ちはだかっています。予算措置や省庁単位での対応のみならず、オール霞が関がワンチームとして、復興を加速する体制が必要です。石川県の「創造的復興」の方針に沿って、能登6市町と緊密に連携して、復興まちづくりを本格化するべく、被災地である能登に、省庁横断的な国の支援拠点を開設いたします。常駐派遣を100人超に拡大した「能登創造的復興タスクフォース」を新たに作ることとし、7月1日、発足させます。被災地に寄り添った、きめ細かい支援に万全を尽くしてまいります。
あわせて、次の大規模災害を見据え、保健・医療・福祉支援の強化、自衛隊・消防・警察等の初動対応などにおける連携の強化、そして、内閣府防災を始めとする政府の災害対応体制の強化についても、法改正も視野に、速やかに方針を取りまとめてまいります。

次に、国民の最大の関心事である経済・物価・賃金についてです。
30年間、日本を覆い続けた低物価・低賃金・低成長のデフレ型経済から脱却し、新たな成長型経済に移行できるかどうか、日本経済は、正に今、正念場にあります。移行の兆しは明確になっています。
まず、賃金です。5パーセントを超える今年の春闘の力強い賃上げ、その成果は、徐々に現れてきます。5月支給分では春闘賃上げ額の4割、6月には6割、7月には8割が反映されていきます。秋に向けて、段階的に賃上げの実感が浸透していきます。
また、設備投資は史上最高水準であり、企業改革も国内外から高い評価を受けています。半導体、蓄電池、データセンター、海外からの大型戦略投資も相次いでいます。まずは、こうした移行の兆しを大きな流れとし、着実なものとするため、重層的に政策を展開していきます。
具体的には、6月からの定額減税は、物価上昇を上回る所得増を社会全体で実感していただくための下支えとして、大きな役割を果たします。中小企業の価格転嫁の徹底のため、独禁法(独占禁止法)などを総動員してまいります。医療・介護、保育、公共調達など、公的分野の賃上げ浸透のために、政府を挙げて、徹底的なフォローアップを進めてまいります。中小企業の稼ぐ力やGX(グリーン・トランスフォーメーション)などの投資を進めるための様々な支援を更に拡大いたします。

一方で、物価水準が高止まる中で、年金(生活)世帯や価格転嫁を進められない中小企業の皆様には、厳しい状況が続いています。移行に取り残されるおそれがある方々へのきめ細かな支援が必要です。このため、二段構えでの対応を採ってまいります。第一段は、早急に着手可能で即効性のある対策、第二段は、秋に策定することを目指す経済対策の一環として講じる対策です。
まず、第一段の対策としては、地方経済や低所得世帯に即効性の高いエネルギー補助を速やかに実施いたします。まず、燃油激変緩和措置は、年内に限り継続することといたします。
そして、酷暑、暑い夏を乗り切るための緊急支援、「酷暑乗り切り緊急支援」として、8月・9月・10月分、3か月について、電気・ガス料金補助を行います。いずれも、具体的な内容について、早急に与党と調整いたします。これらの措置による、年末までの消費者物価の押し下げ効果を、措置がなかった場合と比べ、月平均0.5パーセントポイント以上とするべく、検討してまいります。
次に、第二段の対策として、年金(生活)世帯や低所得者、地方経済に焦点を絞って、思い切った検討をしてまいります。具体的には、物価高の中で食費の高騰などに苦しんでおられる年金(生活)世帯や低所得者世帯を対象として、追加の給付金で支援することを検討いたします。

さらに、学校給食費等の保護者負担の軽減、飼料高騰などの影響を受ける酪農経営などの農林水産業、そして中小企業、医療・介護、保育、学校施設、公衆浴場、地域公共交通、そして物流、地域観光業等に対する物価高騰への幅広い支援を、(物価高騰対応)重点支援地方(創生臨時)交付金の拡充により、きめ細かく講ずることを検討してまいります。
ガソリンや電気・ガスへの補助金は、脱炭素の流れに逆行することもあり、いつまでも続けるべきものではありませんが、先ほど申し上げたとおり、物価高に直撃されている地方経済や低所得者世帯の現状に思いを致し、最も即効性のあるエネルギー補助を今回に限って講じることといたしました。

こうした措置が必要となる根本的な理由の一つは、我が国のエネルギー構造の脆弱性にあります。今後、投資を活性化させ、国内産業を振興し、国民生活を豊かにしていくためには、我が国のエネルギー構造の脆弱性を克服し、低廉で安定的なエネルギーの自給を確保していかなければなりません。
原発の再稼働が進んでいる地域と、まだ全く再稼働が進んでいない地域では、電気料金に最大3割程度の格差があります。安全が確認された原発を速やかに再稼働させるとともに、SMR(小型モジュール炉)など次世代革新炉の研究・開発・実装や、水素、ペロブスカイト(太陽電池の一種)、洋上風力を含めた、脱炭素電源への戦略的投資を確保する仕組みを早急に検討してまいります。
今後、年内をめどに、エネルギー供給・産業構造・産業立地を総合的に捉えた国家戦略の策定を進めてまいります。

米国大統領選挙に加え、イギリスやフランスでも、来月にかけて選挙が行われることとなりました。ウクライナ、中東などの情勢を始め、国際情勢は、不透明感が強まっています。我が国の平和、そして、国民の命と財産を守り抜く。そのために、抑止力を強化するとともに、どの国でも守らなければならない原則や基本的な価値を、何としても次世代に引き継ぐ、こうした強い思いで取り組んでいます。7月以降、NATO(北大西洋条約機構)サミットを始め、太平洋島嶼国の首脳をお招きするPALM10(第10回太平洋・島サミット)や中央アジア5か国との初の首脳会合と、重要な外交日程が続きます。G20(金融世界経済に関する首脳会合)やASEAN(東南アジア諸国連合)、APEC(アジア太平洋経済協力)など、一連の首脳外交の準備も考えながら、緊張感を持って、外交・安保政策に取り組んでまいります。

そして、拉致被害者御家族も御高齢となられる中で、時間的制約のある拉致問題は、ひとときもゆるがせにできない人道問題です。全ての拉致被害者の一日も早い御帰国の実現に向けて、全力で果断に取り組んでまいります。

最後に、憲法改正について申し上げます。
内閣総理大臣の立場からは、憲法改正の議論の内容や進め方について、直接申し上げることは控えてまいりましたが、自民党総裁の立場で申し上げれば、衆議院憲法審査会において、この度、5会派が発議原案の条文について実質合意をしたこと、これは極めて重要な一歩であると考えています。一昨日の党首討論では、立憲民主党にも憲法改正作業の加速化を提案いたしましたが、賛意を得ることができなかったことは残念に思っています。この重要な一歩を更に進めていただきたいと考えています。国家の根幹を規定する基本法たる憲法について、時代の要請に応えて改正を考える機会を国民に提起することは、政治の責任であると改めて強調いたします。