政策国会国会演説

第213回国会における新藤義孝内閣府特命担当大臣(経済財政政策)の経済演説

第213回国会における新藤義孝内閣府特命担当大臣(経済財政政策)の経済演説

一.はじめに

経済財政政策担当大臣として、我が国経済の現状と課題、政策運営の基本的考え方について、所信を申し述べます。
まず、今回の能登半島地震で亡くなられた方々とその御遺族に対し深く哀悼の意を表しますとともに、 被災者の方々に対し心からお見舞いを申し上げます。地震による被害やその経済への影響に十分留意して、 今後の経済財政運営に万全を期してまいります。

二.経済の現状認識と当面の経済財政運営

(経済の現状認識)

さて、我が国の経済には、現在、30年ぶりの高い水準となる賃上げ、設備投資、株価など、前向きな動きが見られます。今は、デフレから脱却し、経済を熱量あふれる新たなステージへと移行させる、千載一遇のチャンスを迎えているものと認識しています。
景気は、このところ一部に足踏みも見られますが、緩やかに回復しています。企業部門は好調です。
業況判断は、非製造業では、バブル期以降最高水準に達し、製造業では、これまでマイナスだった中小企業でもプラスに転じました。設備投資計画も、前年度比12.6%増となっています。
他方、実際の投資は、計画ほどには増加しておらず、また、賃金上昇は物価上昇に追い付いていないことに鑑みると、賃金を含めた所得の伸びが物価上昇を上回る状況を作ることによって、デフレからの脱却に向け、個人消費の回復を始め、経済の再生を着実に進めていく必要があると考えます。
官民の連携によって、当面の所得を下支えするとともに、企業の稼ぐ力を高め、その収益を持続的・構造的な賃上げにつなげる。そして、消費や投資が増加し、更なる経済成長が生まれるという「所得増と成長の好循環」の実現を目指してまいります。

(当面の経済財政運営)

このため、物価高を乗り越えるとともに、供給力を強化するため、昨年11月には、「デフレ完全脱却のための総合経済対策」をとりまとめました。この経済対策には、6項目の税制改正に加え、2013年以降の経済対策では最多となる36項目の制度・規制改革を盛り込みました。こうした施策を含め、経済対策を速やかに実行するとともに、令和6年度予算につながる令和5年度補正予算を着実に執行し、当面の経済財政運営に万全を期してまいります。
住民税非課税世帯への一世帯当たり7万円の追加支援については、ほとんどの市区町村で給付に向けた手続きに入ったところです。これに続く、より幅広い低所得世帯への給付や子育て世帯への加算についても、迅速に取り組みます。本年の春季労使交渉では昨年を上回る賃上げを期待しており、さらに、ボーナス支給月である6月以降には定額減税の支援を講じます。これらによって、家計の所得の伸びを高めてまいります。
賃上げの動きを中堅・中小企業や地方に広げ、それを持続的なものとすることによって、消費の拡大につなげます。このため、賃上げ税制を拡充するとともに、賃上げの鍵となる価格転嫁対策を強化します。
原材料費に加え、労務費の価格転嫁を円滑に進めるため、昨年11月に策定した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の周知徹底を図るとともに、大企業と中小企業の共存共栄を目指すパートナ ーシップ構築宣言の取組を拡大します。
これらの取組の効果も勘案し、来年度の我が国経済は、実質で1.3%程度、名目で3.0%程度の成長を見込みます。

三.供給力の強化

次に、我が国経済の供給力の強化についてです。
足元で0%台の低い水準にとどまっている潜在成長率を引き上げるためには、資本、労働及び全要素生産性の三つの分野において、それぞれ政策対応を強化することが極めて重要です。

(資本)

我が国は、資本の使用年数が先進国の中でも長く、設備の老朽化が進んでいます。厳しい国際競争を勝ち抜くために、設備投資を強化することは必須条件となっています。
このため、半導体等の戦略分野において、生産量に応じた減税制度を新たに導入するとともに、中堅・中小企業の工場新設に対する補助制度を創設します。また、中小企業の省力化投資を後押しするため、簡易で即効性のある「カタログ形式」での支援を行います。こうした資金面での支援に加え、制度・規制改革を含めた、「国内投資促進パッケージ」を着実に実行してまいります。

(労働)

完全失業率は低い水準にあり、有効求人倍率が1を上回って推移する中、企業の人手不足感は高まっています。このため、従前以上に働きたいという多くの意欲ある方々が更に働ける環境整備を進めてまいります。
ジョブ型人事の導入等によって、定年制度を廃止した企業が出てきている中で、本年春を目途として、ジョブ型人事の導入の参考となるわかりやすい指針をとりまとめます。また、経験のある高齢者を含めた全世代のリ・スキリングなど、就業支援に官民連携で取り組みます。
いわゆる「年収の壁」に直面し、やむを得ず就業調整をしておられる方々がおられます。昨年9月にとりまとめた「年収の壁・支援強化パッケージ」を実行することによって、時間の制約を受けずに希望どおり働くことができる環境を整備し、労働力の確保につなげてまいります。

(生産性・イノベーション)

付加価値の創造にとって、最も重要な要素はイノベーションです。宇宙・海洋等のフロンティアの開拓を図るとともに、自動運転トラックやドローンを活用した次世代物流等の実現に向け、デジタル等の新技術の社会実装を進めます。また、国内での研究開発による特許権など、知的財産から生じる所得に対する優遇税制を創設し、無形資産投資を促進します。こうした取組を通じ、イノベーションの力によって、我が国経済の生産性を大きく向上させてまいります。
イノベーションをけん引するスタートアップの支援を強化するため、ストックオプション税制を拡充します。また、グローバル・スタートアップ・キャンパス構想を具体化するとともに、それと全国各地の産学官による支援を有機的に連携させ、世界市場に通用するスタートアップを生み出すエコシステムの形成を目指してまいります。
海外の経済活力を取り込むことは、生産性を高める上でも必要不可欠です。農林水産品の輸出や中小企業の海外展開の促進、対日直接投資の拡大を図るとともに、諸外国との経済連携を強化してまいります。 特に、CPTPPは、高い水準のルールを有し、先進的で野心的な貿易システムの成功例であり、また、単なる経済的な利益を超え、世界の平和と繁栄にも貢献するものです。今後、新規加入要請への対応や、協定の一般的な見直しを通じた貿易や投資ルールの更なる発展、市場歪曲的措置や経済的威圧への対処等に関する議論を深めます。そして、この協定を引き続き「ゴールドスタンダード」として維持・発展させるよう、我が国として、イニシアティブを発揮してまいります。

四.経済社会の持続可能性の確保

続いて、我が国経済社会の持続可能性の確保についてです。

(少子化対策・全世代型社会保障)

我が国が克服すべき最大の危機は、少子高齢化と人口減少です。若年人口が急激に減少する2030年代に入るまでに、少子化のトレンドを反転させる必要があると考えます。
こどもは国の宝であり、昨年12月にとりまとめた「こども未来戦略」に基づき、3.6兆円程度の前例のない規模で、少子化対策を強化してまいります。これによって、GDPに対するこども一人当たり家族関係支出は11%から16%へと上昇し、OECDトップのスウェーデンに達する水準となります。
また、同じく12月にとりまとめた、いわゆる社会保障の「改革工程」に基づき、能力に応じて全世代が支え合う全世代型社会保障を構築することによって、将来世代を含めた全世代の安心を保障し、社会保障制度の持続可能性を高めてまいります。その中では、これまでに解決していない課題について、その原因を分析し、一つ一つの改革を着実に実行してまいります。

(経済の再生と財政健全化)

経済財政運営においては、経済の再生が最優先課題です。経済あっての財政であり、経済を立て直し、そして、財政健全化に向けて取り組むとの考え方の下、財政への信認を確保してまいります。 「新経済・財政再生計画」の改革工程表を実行する中で、DXやデータ駆動型社会の構築を進め、EBPMやPDCAの取組を通じて、ワイズスペンディングを徹底してまいります。

(豊かさと幸せを実感できる経済社会の実現に向けた検討)

その上で、国難とも言える少子高齢化や人口減少を克服し、豊かさと幸せを実感できる経済社会の実現に向けて、昨年秋から、想定される経済社会の変化とそれを力にするための取組など、中長期の重点政策課題の検討を行っているところです。次の「骨太方針」に、その成果を反映してまいります。

五.むすび

国民生活を支えるのは経済です。我が国経済は、所得の増加と成長の好循環が実現する大きなチャンスを迎えており、今後十年の経済の行方は、このチャンスを活かせるかどうかに懸かっていると考えます。
私としては、これを「必ず実現しなければならない」という強い決意の下で、各省庁の施策に横串を刺し、あらゆる政策手段を総動員することによって、我が国経済が持続的な賃上げや活発な投資がけん引する成長型経済へと移行できるよう、全身全霊で取り組んでまいります。
国民の皆様、議員各位の御理解と御協力をよろしくお願い申し上げます。