1.はじめに
自由民主党の稲田朋美です。私は、会派を代表して岸田総理の所信表明演説に対して質問いたします。
岸田政権が誕生して2年が経ちました。 四半世紀以上、日本経済をスッポリと包んでいたデフレという分厚い暗雲からようやく明るい日差しが見えはじめてきました。
コロナ禍で50兆円あったGDPギャップはほぼ解消し、賃金の伸び率も投資も30年ぶりの高水準です。
二度とデフレに戻してはなりません。
一方で急激な物価高は国民生活を直撃しています。この対策には最優先で取り組まなければなりません。
国民の生活を守り、物価上昇を上回る賃上げを実現し、再び「強い経済」を創るために、総理がどのような大胆な対策と改革を行おうとしているのか、国民のみんなが知りたいと思っています。
総理は「聞く力」を発揮されると同時に歴史的な決断も行われました。
昨年暮れの防衛3文書の策定と反撃能力、そしてGDP比2%の防衛費の財源の見通しをたて、戦後の防衛政策の大転換について、正しい方向を打ち出されました。
我が国が生き延びていくための「強い外交・防衛」を実現しなければなりません。
そして「強い地方」です。地方の発展なくして我が国の繁栄はあり得ません。ふるさとの水田や山林、海や川が国の基本です。農林水産業を守り、災害に強い地方を創ることが日本の強さにつながります。
「強い経済」「強い外交・防衛」「強い地方」で日本を強くすると同時に、全ての人が社会から取り残されずに大切にされる「優しい国」であってほしいと願います。
「昨日よりも今日、今日よりも明日がきっと良くなる」そんな国を目指す岸田総理のその道筋を伺って参ります。
2.「強い経済」(1)総合経済対策
はじめに、「強い経済」です。
そもそも、良い「経済」とは単にGDPが高いということではありません。 究極の目標は国民の幸福です。
世代を越えて、一人一人の健康や安心感、社会とのつながりを高めていくことによって幸福度が高まる経済こそが良い経済だと考えます。
国民の幸福感を実現できるように、日本経済を強くするための新たな対策でなければなりません。
まず、物価高対策はしっかりやる必要があります。円安に加えて原油高もしばらく続く可能性があり、国民の生活を守るため、その具体策を総理に伺います。
一方で、需給ギャップはプラスに転じています。
今後は、赤字国債で足りない需要を埋めるという発想からは脱しなければなりません。
さらに言えば、現下のインフレ局面において、過度の景気刺激策を講じることは更なるインフレを招く可能性があります。
むしろ、今起きていること、そしてこれから乗り越えなければならないことは人手不足であり、少子高齢化です。
・物価高を乗り越えるための賃金と所得の上昇
・巨額の内部留保を抱える企業の投資促進、イノベーションの促進とスタートアップ
・デジタルも使った人手不足対策
・成長分野への労働移動を促進するためのリ・スキリング
・資源価格が上昇する中での気候変動対策
今後の政策は、こうした課題に対する「知恵」を絞っていくものでなければなりません。
また、この6月の骨太の方針では、「歳出構造を平時に戻していく」ことが明記されました。
先日の会議で総理からもご指示がありましたが、今までの経済対策のような巨額、長期間の基金は見直しの時期に来ています。
日本経済が歴史的な転換期にある今、日本の「強い経済」を実現するため、我が国がとりうる新たなインパクトのある対策は何なのか、総理のお考えをお尋ねします。
総理は「税収増を国民に適切に還元すべき」と述べておられます。
そもそも、経済対策そのものが、税収増を適切に国民の皆様に還元するものです。
ここ2年、補正予算によって合計約60兆円の追加歳出を行っていることも忘れてはなりません。
減税、さらなる給付を議論する場合には、現下の食料品などの物価高に苦しむ世帯の日々の消費、生活を守ることに重点を置くべきです。
「税収増の還元」というのは新しいメッセージです。広く国民の理解を得て効果的な政策となるよう、総理から丁寧な説明が必要だと思いますが、お考えをお聞かせください。
3.「強い経済」(2)経済財政運営
経済財政運営の基本的な考え方について申し上げます。
10年前、日本が自信を失いかけていた中で、政権を取り戻した安倍晋三総理は、日本の企業や日本人一人一人の意識を切り替え、自信と主体性を取り戻すことを呼びかけました。
女性や高齢者の労働参加が進み、雇用者数は400万人以上増えました。
GDPは史上最高水準、コロナの前はプライマリーバランスの赤字もかつてなく縮小しました。
私は、積極財政と財政健全化は、対立するものではなく、両立すると考えています。
インフラ投資をはじめ経済成長のために真に必要な政策、感染症や災害などには積極的に財政支出を行うべきです。
その中で、1,000兆円を超える巨額の債務残高を有する我が国は、災害や感染症など様々な危機の際にも対応できる余力を作っておく必要があります。すなわち、国家のリスクマネジメントからも財政を考えていくべきです。
円安、貿易赤字が続く中で、国家の信認と通貨の価値を保ち、国民の安全と安心を守りぬくためには、足もとを見られず、隙を見せない経済財政運営を行うべきです。
総理はアベノミクスをどのように評価しておられるのか、さらに、リスクマネジメントの観点から経済財政運営はどのようにあるべきか、お尋ねします。
次に、財源問題です。
安倍政権で、消費税を2度引き上げ、その財源で、社会保障の充実や幼児教育の無償化を実現しました。
岸田政権では、少子化対策の予算の増額をはじめ、歴史的な政策決定を行い、その財源確保にも取り組んでいます。
この中で、少子化対策の財源については、実質的に追加負担を生じさせず、社会保障改革により、保険料を抑制していく方針が明確に示されました。
つまり、少子化対策のために新たな支援金を入れるが、一方で医療や介護などの保険料を改革によって抑制することで、負担増は無くなるという理解でよろしいのでしょうか。
支援金などの少子化対策の財源について、この年末には具体案を決定する必要があると思いますが、総理に伺います。
アベノミクスの大きな柱は「女性活躍」でした。
女性が自信を持ち、社会の中でさらに主体性をもって活躍することは、人々の幸福感を上げ、成長戦略の重要な柱です。多様なバックグラウンドや、能力、経験を持った人々が集まり、課題の解決を目指すことで、新たな知恵が生まれ、価値が創造されます。
また、静かなる有事といわれる少子化を防ぐためにも、格差問題は重要な課題です。正規・非正規の格差は生涯年収の格差となり、結婚の格差となっています。
30代前半の男性の非正規労働者の既婚者の割合は2割、正規労働者の既婚者の割合は6割です。格差解消のために、同一労働同一賃金ガイドラインの見直し、非正規労働者の正規化の支援に取り組むべきです。
政府が新しい資本主義の実現を目指す中で、女性の活躍をさらに促し、正規・非正規の格差を解消するために、どのような方策をとるのか、総理のお考えをお聞かせください。
女性活躍に関連して夫婦の氏について申し上げます。海外で活躍する女性や父親の経営を引き継ぐ女性も増えています。
夫婦同氏の民法の原則は維持しつつも、つまり、ファミリーネームは残しつつも、婚姻前の氏、すなわち旧姓を社会的呼称として、通称ではなく法律上の根拠を持って使える制度「婚前氏続称制度」を民法を改正して創るべきだと私は考えます。
新しいことに挑戦する、何かを変える、ゼロからイチに踏み出すことには大きな抵抗があります。しかし現状維持からは何も生まれない。良いものを守るためにも常に改革をする。日本の良き伝統を守るために創造を恐れてはなりません。
4.「強い経済」(3)デジタル行財政改革
次に、総理が提唱されている「デジタル行財政改革」についてです。
私は、元・行政改革担当大臣としてその趣旨に強く賛同いたしますが、ここで、まず乗り越えるべきは、マイナンバーカードをめぐる問題です。
保険証との統合は、重複投薬の改善など、医療全体のサービスを抜本的に向上させるものです。
さらに、銀行口座と紐づけることなどで、例えば養育費の支払いを確保したり、感染症・災害などの危機が発生した場合に、本当に必要な人に手厚く、迅速かつ効率的に支援を行うことも可能になります。
マイナンバーカードについては、「紐づけ誤り」の総点検をしっかり行い、利用者の気持ちに寄り添って、メリットを丁寧に国民に説明していくべきです。さらに、今後、マイナンバーを活用して、所得や資産に応じて真に必要な人に支援を行っていくべきではないでしょうか。総理のお考えを伺います。
橋本龍太郎総理は、行政、財政、社会保障、経済、金融システム、教育の「6つの改革」を掲げ、その中心となった行政改革では、21世紀にふさわしい「この国のかたち」の再構築を図りました。
「デジタル行財政改革」で総理が目指すものは何でしょうか。
「デジタル敗戦」という危機的な現状認識があるならば、かなりの抜本的な改革を進めていく必要があります。今こそ戦後の行財政改革の流れを総括し、将来、社会の中核を担う若者たちの声も生かしながら、令和の「この国のかたち」を総理が先頭に立ってお示しになるべきです。
岸田政権の「デジタル行財政改革」は、何を改革し、何を目指すのか、総理から国民が自分ごとと感じられる分かりやすいご説明をお願いします。
政治は制度をつくるだけでなく、それが現場でどう動いているか目配りし、不断に改善していくことも重要です。
我が国の国際化が進展する中で、これまで日本人を前提とした昭和の時代からの制度が、外国人に適用される際に、弊害が顕在化する場合があります。その例として、年金の脱退一時金制度があります。
日本人は年金制度から脱退することはできません。
ところが、外国人が帰国する場合には、年金制度から脱退し、一時金を受給できます。
永住者資格がある外国人が年金脱退一時金を受給して帰国し、その後再入国して、収入が少ないという理由で生活保護を受給することも現在の制度運営上、可能となっています。
脱退一時金制度をはじめ、在留資格制度や社会保障制度の運用の狭間で生じている課題について実態把握を進め、国民が納得できる制度に向けて改善を図るべきと考えますが、厚生労働大臣のご見解を伺います。
5.「強い外交・防衛」
次に「強い外交・防衛」です。
ロシアがウクライナを侵略し、中東ではハマスによる残虐なテロ行為が発生するなど、暴力により国際社会の秩序が壊される事態が相次いでいます。
自らの主張の実現のために暴力を使ってはならない、という国際社会の基本原則が大きく揺らいでいます。
来年、大統領選を控えるアメリカは、今後、内向きな姿勢を強めるかもしれません。グローバルサウスと呼ばれる国々も発言力を強めています。
国際社会の分断が深まる中、日本は積極的な外交を展開しなければ、取り残されてしまいます。
国連安保理の常任理事国であるロシアは、隣国への核兵器の使用をちらつかせ、中国は、台湾の武力統一の選択肢を放棄しないと明言しています。
このような大国の無責任な姿勢が際立つ中で、安保理はもはや頼りにはなりません。
今後、日本はいかなるグローバルガバナンスを目指すべきでしょうか。その実現のためにどのように対応すべきと総理はお考えになりますか。
防衛に目を転じると、我が国は戦後、最も厳しい安全保障環境にあります。
中国は、空母などの軍事力を南西諸島を超えて太平洋に進出させています。尖閣諸島周辺では海警局の船が領海侵入を繰り返しています。
北朝鮮は、昨年以降だけでもICBM級を含む80発以上の弾道ミサイルを日本海に発射しました。
ロシアは、中国との軍事連携を強化し、我が国周辺での艦艇の共同航行、爆撃機の共同飛行などを行っています。
力による一方的な現状変更を厭わない国々に囲まれており、我が国自身の防衛力を強化していかなければなりません。
総理の英断で、既に舵は大きく切られています。
力強い外交、防衛力の抜本的強化、そして総合的な国力の向上と活用により、領土、領海、領空と国民の生命財産を守り抜く総理のご決意をお示しください。
ウクライナ侵略に際し、ロシアはザポリージャ原子力発電所を攻撃、占拠しました。日本海に北朝鮮から多数の弾道ミサイルが発射される中、現在稼働中の原発の多くは日本海側にあります。
原発に対するミサイル攻撃への対応は万全でしょうか。自衛隊の警護出動の対象への原発の追加、立地地域への防空システムの配備は不可欠と思いますが、防衛大臣に伺います。
さて、文化芸術の振興は、我が国経済の活性化のみならず、外交・安全保障のツールでもあります。
例えば、能やバレエは、国境を越えて、誰もがその素晴らしさを共有できる総合舞台芸術です。
このような普遍的な芸術分野への支援は、我が国の価値を引き上げ、日本のファンを増やし、文化を通じた安全保障につながるのです。
歴史認識など難しい課題のある韓国のユン大統領は、バレエを通じた日韓交流に強い関心と共感を示しました。これが契機となり、来年度は新国立劇場と韓国とのバレエ交流が予定されています。
外交・安全保障のツールとしても文化芸術を支援していくべきと考えますが、総理のご見解をお伺いします。
6.「強い地方」
次に「強い地方」です。
まず、コロナから復活しつつある観光については、人手不足が最大の課題です。デジタル技術を使って人手不足に対応している事業者に対して支援が必要です。
インフラ対策については、国土強靭化基本法が改正され、豪雪対策についても、財政措置の義務化などを盛り込んだ60年ぶりの法改正が実現しました。
ヒト・モノの移動を活発化させるため、新幹線をはじめとする高速鉄道、高速道路、港湾、空港等が有機的に連結したネットワーク形成が必要です。
さらに、成長戦略の観点から、世界一の鉄道技術などのインフラ輸出を進めていくことも重要です。
「強い地方」をつくるためには、何より日本の農林水産業が元気にならなければなりません。
農業は国の基(もとい)であり、我が国の農業を維持・発展させることは、食料安全保障の観点からも極めて重要です。
過度な輸入依存、高齢化などの課題を抱える中で、畑地化を通じた小麦や野菜などの生産拡大、スマート農業の促進が必要です。
我が国の農業を守りつつ、強い農業を作っていく、農林水産大臣のご決意を伺います。
7.憲法改正
憲法改正は立党以来の我が党の党是です。
自衛隊明記、緊急事態条項、合区解消と一票の格差、教育無償化の4項目のたたき台を提案しています。
特に自衛隊の明記については、現在の厳しい安全保障環境と防衛力の抜本的強化の必要性に鑑みて、各党との協議を加速化して速やかな実現を図った上で、さらに踏み込んで検討をしていく必要があります。
憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」という部分は国際社会の現実、特に最近の日本を取り巻く安全保障環境とはまったく相入れないと言わざるを得ません。
日本の利益を侵害しようとする外国の行為に対して、まずは自らの手で自らを守る姿勢を憲法上明らかにしなければなりません。
また、一票の格差についても、人口比例を厳格に考える最高裁判例の積み重ねの中で、課題の多い地方の国会議員が減らされる一方、都市部でも選挙のたびに選挙区が変わるといった弊害が出てきています。選挙民との絆を背景にしてその声を国政につなげるのが、代表制民主主義における国会議員の役割ではないでしょうか。
9条及び一票の格差についての総理のご所見と、憲法改正実現に向けてのご決意をお示しください。
8.「優しい国」
さて、このように、日本を強くすると同時に、全ての人が社会から取り残されずに大切にされる寛容で温かい「優しい国」を目指すべきです。
我が国のシングルマザー家庭の貧困率は、OECD諸国で最低レベル、先進国として恥ずべきことです。
こどもの貧困を解消し、貧困の連鎖を断ち切ることで、すべてのこどもの可能性が十分に発揮される環境を作っていくべきです。これは、少子化対策の土台にもなるはずです。
我が国では、こども食堂やこども宅食、フードバンクなどの取組みが、主に貧困対策の観点から全国で広がりつつあります。
一方、米国や欧州では、環境面を含め総合的な観点から、食品ロスを削減するために、食品寄附に起因した法的責任を問わない「善きサマリア人の法」や税制優遇措置などを導入しています。
「食品ロスの削減の推進に関する法律」制定から今年で5年、我が国も、法的措置を含め、戦略的に食品寄附を促進していく必要があります。
児童虐待についても、直近の相談対応件数は20万件を超えるなど、年々、厳しさを増しています。児童虐待によりこどもが命を落とすことは絶対にあってはなりません。
食品ロスへの積極的な取組みの方向性及び、年末の「こども大綱」でも大きな論点となる、ひとり親家庭の自立支援、児童虐待の根絶に向けて、どのような方針で臨まれるか、総理のご見解を伺います。
2023年の日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位と過去最低でした。
中でも政治分野における女性参画は先進国で最低です。
国民の過半数が女性である我が国において、社会の代表であるべき衆議院の女性比率がわずか10%。これでは正しく民意を反映できていない、つまり民主主義が歪んでいると言っても過言ではありません。
政治分野における女性の割合は、社会の多様性の表れでもあります。
多様性を許容する社会を創ることが日本の閉塞感を打破し、活性化させ、人々の幸福感を増し、世界における日本の価値を高めることにつながるのです。
政治分野における女性の参画についての意義及びその推進の方策について総理のご見解を伺います。
旧統一教会について、政府が解散命令を東京地裁に請求したことで、損害の申し出が増加する可能性があります。救済を実効あるものにするためには、損害賠償請求を容易にするなど、被害者に寄り添うことが重要と考えますが、どのように対応されますか。
また、教団がその財産を海外に持ち出すのではないかとの懸念も示されており、議員立法の動きがあります。政府として、こうした懸念にどのように対応されるのか総理にお尋ねします。
9.終わりに
強い日本を取り戻し、全ての人が社会から大切にされ、多くの選択肢が与えられる国を創ることが、真の豊かさを実現することであり、世界から尊敬される国になることです。
真の保守は、復古主義でも排他主義でも現状維持でもありません。
我が自由民主党は、立党以来日本を代表する保守政党であり、野党時代には新綱領を策定し、「常に進歩を目指す保守政党である」と宣言しました。
今、この国の保守が揺らいでいるのではないでしょうか。
保守とは、寛容で人に優しく、多様性を認め、自分は間違うかもしれないとの謙虚さをもち、だからこそ先人が積み上げたものに敬意を払いつつも、より良い未来に向けて断固改革を進めていくことだと確信します。
岸田総理には日本の保守のあるべき姿を示し、これからも毅然と決めるべきことを決め、国家・国民のために邁進されますことを切にお願いし、私の質問を終わります。
(以上)