月刊誌「りぶる」 3月号より
平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災から、間もなく11年になります。
甚大な被害を受けながらも震災を乗り越え、元気に活躍している岩手県、宮城県、福島県の皆さんを各県連女性局長らが訪ねました。
東日本大震災で甚大な被害を受けた三陸鉄道。その後の台風19号による災害も力強く乗り越え、地元住民の足として、地域活性化の要として、この地を走り続けています。代表取締役社長の中村一郎さんに復興の道のり、新生“リアス線”、イベント列車、今後の展望などを伺いました。
三陸鉄道「宮古駅」にて。車両のシンボルカラーは、青・赤・白のトリコロール。それぞれ「三陸の海」・「鉄道に対する情熱」・「誠実」を表している。列車正面の中央下に書かれた車体番号「36」は、「さんりく」をもじって付けたもの
平成23(2011)年3月11日、当時岩手県職員だった中村一郎さんは釜石にいました。14時30分過ぎ、県の合同庁舎から海の方へ、15時からセミナーが開催される予定のホテル会場に向かっていました。そして14時46分に地震が発生。震度6弱の大きな揺れに襲われます。「海に近いので津波が来るかもしれないと思い、直ちにセミナーを中止。参加者に避難していただき、私は情報収集のために庁舎へ戻りました」。
その頃三陸鉄道は、南リアス線と北リアス線の二区間でそれぞれ1両の列車が運行中でした。しばらくして、津波が沿岸を襲います。後に大船渡市白浜漁港で16.7メートル、釜石市釜石港で8.4メートルと推定される巨大な津波でした。幸い乗客と乗員は全員無事でしたが、線路や橋、駅舎などが流失。317カ所、約100億円に上る甚大な被害を受け、全線で運転停止を余儀なくされました。
当時三陸鉄道の社長を務めていた望月正彦さんは、3月13日に津波警報が注意報に変わったことを確認し、社員一人を連れて現地調査を開始。海沿いの国道は、がれきに覆われ通行止めのため、山道を歩きながら状況確認を進めました。そして被害の少ない区間だけでも運行を再開させようと、その日のうちに点検・復旧させる区間の優先順位を決め、指示を出します。これには社員の反対もありました。“もっとじっくり安全を確保してから再開するべき”“列車を動かすより、がれきの撤去や片付けに社員を派遣する方が地域のためでは”などの意見も。しかし「望月社長は、がれき撤去はボランティアに任せられるけれど、列車を動かすのは自分たちにしかできない、三陸鉄道の責務だと考えていたようです。当時は国道が寸断し、ガソリン不足もあって移動手段がなく、被災者は買い物もままならない状況でした」。
そして、3月16日には陸中野田―久慈間で運転を再開。災害復興支援列車として無料で3往復します。この時、地震直後からの停電がまだ続いていました。列車はディーゼルエンジン搭載の車両なので運行できましたが、信号が使えません。そこで線路の数カ所に社員を配置。人海戦術で手旗信号を振って乗り切りました。「2駅間での運行でしたが、震災からわずか5日、混乱が続く中での運転再開は被災者を驚かせました。速度を抑えてゆっくり進む列車に、多くの人が手を振ってくれたそうです」。
ディーゼル車両は、社員たちの活動拠点としても活躍しました。地震が起きた後2時間ほどで、宮古駅にある本社に社員たちが戻り始めましたが、停電のために電話やパソコン、暖房、照明が使えませんでした。偶然にも宮古駅の構内に停まっていたディーゼル車両で照明や暖房が使えたため、車内に災害対策本部を設置。約1週間、望月社長はその中で陣頭指揮を執り、3月20日には宮古―田老間、29日には田老―小本(現・岩泉小本)間で運転が再開されます。
そして3年後の4月6日、三陸鉄道は南リアス線と北リアス線の全線で運行を再開。中村さんは、いち早く復旧できた理由の一つに望月社長の初動の早さを挙げます。「会社の方針を素早く固め、3年後の全面復旧を目標に設定。それに向かって社員が一丸となって頑張り、関係者に協力を仰いでいきました」。
国や自治体をはじめ、全国、海外からも多くの支援が寄せられました。自衛隊は“三陸の希望作戦”と名付け、のべ2000人が駅や線路上のがれき撤去に協力。また中東のクウェート国から日本政府に寄せられた500万バレルの原油を約400億円の現金に換え、そのうち20億円余りが三陸鉄道に贈られます。その資金は流失した島越駅舎の再建の他、列車8両の導入に活用されました。列車の正面にはクウェート国の国章、ドアには「クウェート国の支援に感謝します」の言葉がアラビア語と英語、日本語の3カ国語で掲げられました。この車両は今も三陸を走り続けています。
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