月刊誌「りぶる」 12月号より
大規模な災害が発生した時、または発生する恐れのある時に、国土交通省では地方自治体の要請に応じてテックフォース(緊急災害対策派遣隊)を派遣しています。
東京都千代田区にある国土交通省本省と、災害現場の最前線で活躍している隊員のもとを訪れ、お話を伺いました。
国土交通省本省の「防災センター」で、水管理・国土保全局の井上智夫局長にテックフォースの役割や活動などについて伺いました。
―テックフォースについて教えてください。
井上 平成20(2008)年、国土交通省に創設された部隊です。テックとは、Technical Emergency Controlの頭文字をとった略称で、テックフォースは緊急災害対策派遣隊と訳されます。
台風や豪雨、地震、津波、火山噴火などの大規模な災害が発生した時、または発生する恐れのある時に現地を訪れ、技術的な分野で被災自治体を支援しています。
国土交通省はテックフォースが創設される前から、災害時の自治体支援を行ってきました。特に平成16(2004)年は災害の多かった年で、10個の台風が日本に上陸。震度7の激震が襲った新潟県中越地震もありました。それらの災害に、自治体の首長や職員たちが非常に大変な思いをしながら対応していたのを目の当たりにし、国土交通省として何とか彼らを助けられないかと切実に感じました。この経験をきっかけに本格的な支援の仕組みをつくることになり、テックフォースが誕生しました。
この部隊の特徴の一つは、テックフォース専任の人材を抱えるのではなく、国土交通省職員の中から隊員を指名し、緊急時に派遣していること。普段は各地方整備局で河川や道路の管理、整備などに当たっている職員たちで構成されている点にあります。
私が局長を務める本省の水管理・国土保全局は、国土交通省全体の防災の取りまとめの他、河川や道路などの災害復旧事業を所管しています。テックフォースの立ち上げを担当し、その後の運営窓口を務めています。
―テックフォースには、どのような部隊がありますか。
井上 大まかに言うと、専門を災害の対象で分けた「河川班」「道路班」「砂防班」などがあります。その他、公共の建物が被災した時、倒壊などによる二次災害を防ぐために応急危険度判定をする、宅地建物の担当部隊があります。また、被災地では建物が被害を受けて宿泊施設等が使えないことが多く、現場に乗り込む専門部隊の宿の手配や燃料の補給など、後方支援を行う部隊もあります。
それから、テックフォースの活動を国民の皆さまに広く知っていただくこともミッションの一つ。そのために活動を記録、広報する担当を置いています。
―テックフォースは、具体的にどのような活動をしていますか。
井上 支援の要請を受けたら、初めに地方整備局から被災した自治体の災害対策本部へ、「リエゾン」と呼ばれる隊員を派遣します。リエゾンとは“仲介、橋渡し”を意味するフランス語で、テックフォースの場合は災害対策現地情報連絡員のことです。
迅速な災害対応をするには、被害状況や自治体のニーズを把握した上で、具体的な技術支援の内容や、それらを遂行する隊員の数を決めなければなりません。リエゾンが集めた情報を総合的に判断し、地方整備局が本省と連携して最適な部隊を構成、現地へ派遣しています。支援内容は、自治体のニーズに応えるだけでなく、たとえ要請がなくてもリエゾンが「これは必要だ」と判断すれば、それに対応します。
―リエゾンの情報を基に、実際の支援が始まるのですね。
井上 時間の経過に沿って説明すると、活動は大きく分けて3段階あります。1番目は、災害現場の状況把握です。
発災直後に一番大事なことは、救命救助。これは警察や消防、自衛隊の方々が行いますが、彼らが二次災害に遭わないように安全性の確認をするのはテックフォースの重要な役割です。
例えば今年7月3日、静岡県熱海市で大規模な土石流が発生し、下流で甚大な被害が出ました。土石流の現場は、さらに上から再び土砂が崩れてくる危険性と隣り合わせ。その中で安全に救命救助ができるように監視カメラを4基設置して、静岡県や熱海市などと画像を共有しました。また県は、テックフォースの助言を受けて斜面の変動状況を計測する地盤伸縮計を設置。これらの計器で現場の状況を常にチェックしながら、救命救助が進められました。
監視カメラで新たな土石流発生の恐れが見られた場合や、地盤伸縮計で基準値以上の数値が出た場合は、活動を一時中止。自治体に、その判断基準などの助言を行いました。
―2番目の活動は何ですか。
井上 進入ルート、避難ルートの確保です。
災害時は、木や電柱が倒れたり、車両が横転したりして道路がふさがり、被災地にアクセスできないことがあります。こうした状況において、テックフォースが通行可能なルートを調査し、自治体や関係機関に情報提供。さらに、道路啓開も行います。道路啓開とは、道路をふさぐがれきの処理や応急的な段差修繕などを行い、警察や消防、自衛隊などの緊急車両が通れるようにすることで、被災した集落の孤立解消や緊急物資等の輸送ルートの確保につながっています。
また、大雨や洪水、津波などの災害現場では、浸水によって活動が阻まれることもあります。そこで、テックフォースが排水ポンプ車を出動させ、排水支援を行っています。中には、最大で25メートルプールの水を約5分で排水する能力があるポンプ車もあります。
道路啓開や排水作業は、自治体独自ではなかなかできません。テックフォースが技術的に支援することで救命救助活動などを促進し、被害の最小化につなげています。
3番目は、道路や河川、港湾、砂防施設といったインフラの被災状況の調査です。
被災したインフラの復旧は、国の重要な役割の一つです。しかし、そのためには、どの程度の被害を受けたのかを調査する必要があります。もちろん自治体でも調査しますが、被害が広範囲に及ぶ場合は調査箇所が大量に発生しますので、テックフォースが支援します。国が激甚災害に指定すると、自治体を財政面でも助けることができるので、早急な調査が求められています。
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