月刊誌「りぶる」 8月号より
6月23日、女性のための政治塾「第26回 女性未来塾」がオンライン形式で開催され、萩生田光一文部科学大臣が講演しました。
IoT※の活用や、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大など、社会が大きく変化する中で、子供たちの教育の在り方も大きく変わらなければなりません。令和の新しい時代にふさわしい、教育の仕組みを変えていくための一歩を踏み出したい。私は、このような気概を持って教育改革にチャレンジしています。
わが国は、全国のどの地域でも、一定の水準の教育を受けることができます。知識だけでなく、子供たちの「知・徳・体」を一体で育む日本型の教育は優れたシステムで、諸外国からも高く評価されています。
しかし、その一方で、多様な子供たちへの対応がうまくできず、子供たちの学習意欲の低下も大きな問題になっています。これからを生きる子供たちには、一人一人が自分の良さや可能性を認識した上で、他者を価値のある存在として尊重しながら豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手になってほしいのです。こうした力が身に付くよう、これまでの学校教育の良さをしっかりと継承しながら、新しい時代の〝日本型学校教育〟を推進していきたいと考えています。
目指すは、多様な子供たちの可能性を引き出す「個別最適な学び」と「協働的な学び」の両立です。誰一人取り残すことなく、これらの〝学び〟を一体的に充実させるため、文部科学省では全ての児童生徒に一人1台端末等のICT(情報通信技術)環境を整備する「GIGAスクール構想」を進めています。
昨年3月、ユネスコ主催の「新型コロナウイルス感染症の流行と教育に関する第1回特別会合」がテレビ会議で開催され、フランス、イタリア、イランなど11カ国の大臣らが出席しました。各国からは、オンラインやテレビ放送等を活用した遠隔教育などの取り組みが紹介され、わが国だけオンライン授業が進んでいない現実に強い危機感を持ちました。
そこで、本来は4年間で整備する予定だった計画を前倒しすることにし、パソコンメーカー等の方々に集まっていただき「国家の一大事なので、ぜひご協力を」と頭を下げました。最終的にパソコン1台に付き2万円ほどのコストダウンを図ることができ、計800万台分を確保。今年を「GIGAスクール元年」と位置付け、4月1日から公立の小中学校で一人1台端末と大容量の通信ネットワークを利活用した〝学び〟が本格スタートしました。
国はこれまでにも、平成6(1994)年から27年間にわたってパソコン等を整備するための地方財政措置を講じてきました。しかし、実際の学校では、パソコンをはじめ、理科室の実験器具や図書室の本などを支援するための予算が、別の目的に使われることが常態化しているのです。これからは、〝学び〟を支援するための予算は、その目的のためにしっかりと使っていただく。本日の女性未来塾の受講生の中には、地方議員の方もいらっしゃると聞きました。ぜひ地方議会のチェック機能を発揮して、地方財政措置に基づく予算が適切に使われているかを確認していただきたい。そして、理科室の実験器具が古くて、図書室の本の背表紙がボロボロであれば、その理由を首長に質問してほしいのです。子供たちの学習意欲を高めるには、こうしたことも大切ではないかと考えます。
GIGAスクール構想について、詳しく説明しましょう。一人1台端末になることで、何が変わるのか。例えば、音声や動画を含んだデジタル教材の利活用が進み、子供たちの興味や関心をさらに高めることができます。
今は、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、地方の子供たちは、なかなか国会見学に来ることができません。そこで文部科学省は、教材として国会の中を案内する動画を制作し、本日から配信をスタートしました。教科書で「国会は日本の立法府で…」と勉強するよりも、面白いのではないかと自負しています。私のつたない解説付きの動画ですが(笑)、子供たちには国会内部のビジュアルを大いに楽しんでもらいたいと思っています。
今後、GIGAスクール構想が進展していっても、学校教育がオンラインだけで成立することにはならないと考えています。有識者と呼ばれる人の中には「一人1台端末になれば、教師はいらないのではないか」「授業の上手な人が遠隔から授業をやる方が子供たちのためになる」と言う人がいます。しかし、学校は、塾や予備校とは違います。単に知識を伝達する場ではなく、人と人との関わりの中で、人生や社会を見据えて学び合う場です。時には互いに助け合い、好きなことや嫌いなこと、苦手なことにも取り組むことができるのが強み。学習の基本はあくまでも対面であり、学校は集団で学ぶところですから、その大切さはしっかりと守っていきたいと思います。
学校の通信簿(通知表)には「5、4、3、2、1」といった学習の評価だけでなく、「集団行動ができている」とか、「飼育係を一生懸命やっている」とか、学校での子供の様子が記されています。こうした評価の一つ一つが、人として成長していく過程において、重要な役割を果たしています。
現在、文部科学省では「全国的な学力調査のCBT※化検討ワーキンググループ」を立ち上げています。今後、コンピューターを使った調査に切り替えていくことで、例えば「この問題はやはり子供たちに分かりにくいのだ」「ある自治体の子供たちだけミスをするのは、教科書に問題があるのではないか」といった分析が容易になり、その結果も全国で共有できるようになります。課題は、個人ごとのスタディ・ログ(学習履歴)をはじめとする膨大な量の匿名化データを、いかに管理していくか。しっかりとデータを蓄積・管理できる仕組みづくりを、まもなくスタートするデジタル庁の創設に合わせて、文部科学省も一緒に考えていきたいと思います。
GIGAスクール構想が始まる時、若い教師の方から「新学期が楽しみです。ワクワクしながら新しい教材をつくっています」とメールが送られてきました。その一方で、あと数年で定年退職される方から「なんでこんな余計なことをしてくれたんだ。俺には積み上げてきた教育スタイルがあるんだ」といった、ご意見もありました。黒板の前でチョークを持ちながら授業を肌感覚で行うことは、もちろん大切です。しかし、これからは、教師の皆さんに教室の中を往来しながら、そしてタブレットやノートパソコンをのぞき込みながら子供たちに声を掛けていただきたい。〝ティーチング〟から〝コーチング〟への転換を、新しい時代の学校は目指していきたいと思います。
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