月刊誌「りぶる」 5月号より
超高齢社会を迎え、不明土地への対策が喫緊の課題となっています。「所有者不明土地等に関する特別委員会」の野田毅委員長に、所有者不明土地の現状と課題解決に向けた取り組み、特別委員会の活動などについて伺いました。
―所有者不明土地とは何でしょうか。
野田不動産登記簿を見ただけでは所有者が誰なのか分からない、分かっても連絡が取れない土地を「所有者不明土地」と呼んでいます。相続が繰り返されるたびに、このような土地は増えてきました。
―所有者不明土地は、日本にどのくらいありますか。
野田全てを合わせると、その面積はなんと九州を上回るとされています。「所有者不明土地問題研究会」の推計によると、全国の土地の所有者不明率は、平成28(2016)年時点で20・3パーセント。面積に換算すると約410万ヘクタールになります。 相続多発時代を迎える日本では、今後、ますます所有者不明土地が増え続けていくことが見込まれています。このまま何も対策を取らなければ2040年には、北海道本島の面積に迫る約720万ヘクタールにまで広がると予測されています。 所有者不明土地問題は、まさに“待ったなし"の課題です。
―所有者不明土地があると、どのようなことが起こりますか。
野田私たちの暮らしのさまざまなところで支障が生じます。当たり前のことですが、所有者の許可が得られない限り、他の人の土地に勝手に入ったり、手を加えたりすることはできません。道路建設や河川改修など必要な事業をする時は、まず用地の確保が必要ですが、地権者の同意を得るのは至難です。
私はさらに次の三つを特に問題視しています。
一つ目は、災害が発生した時、復旧・復興の足かせになることです。
10年前の東日本大震災では、住宅の高台移転等を計画する際、買収予定地に所有者不明土地が数多くあることが判明。それらを移転区域から外すために何度も計画変更を余儀なくされました。その結果、移転が完了するまでに長い年月を費やすことになり、復興の遅れにつながりました。
また、5年前の熊本地震でも隣地の崖が崩れたため、敷地を整備して住居を再建するのに大変苦労しました。隣地との境界を確定するのに、所有者と連絡が取れなかったからです。
二つ目は、土地の利活用の妨げになることです。
道路の整備や河川の拡幅などの予算を確保したのに、用地取得難のため着工までに何年も要する例は山ほどあります。農業の基盤整備事業に時間がかかるのもこれが原因です。
都会でも大きな問題になっています。例えば、地中に下水道管やガス管が埋め込まれている場所では、老朽化等による取り換え工事をする際に所有者不明土地があると、大変厄介なことになります。
こうしたことは公共事業だけでなく、民間でも用地が取得できないために開発事業に遅れが生じるなどしています。所有者不明土地による経済的損失は2017年から2040年までの累積で、少なくとも約6兆円にのぼると試算されています(※1)。
三つ目は、土地が適切に管理されないことによって周囲の人たちに大変な迷惑がかかっていることです。
地方に行けば、耕作放棄地がよく目に入ります。雑草が生い茂り、害虫が発生して周りの営農者に多大な被害が及んでいます。
さらに、日本は国土面積の約7割が山林です。近年は、狭い範囲に短時間で強い雨が降る局地的大雨や集中豪雨による被害が各地で多発しています。山林が手入れされないまま荒廃したために、大雨によって山林が崩壊。その被害は、山林の付近だけでなく、大量の水や土砂、大きな石、流木等が一気に流れ落ちることで、河川の下流にまで拡大しています。山林の所有者が誰かよく分からず、しっかりと管理ができなくなったからです。
このように所有者不明土地は、個人だけの問題ではなく、社会全体にさまざまな悪影響を及ぼし、さらには人命にも関わるのです。
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